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■第二十五話
真夏の夜のトンネル
〜10年前の出来事を改めて振り返って〜

注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです

■その3:紅一点のT橋



この“T橋”は、何気に“霊感持ち”の体質である。
何でもそれは、「母親から譲り受けた物」と本人がコメントしていた。
俗に言う“自称霊能者”であるのだが、この類を私は殆ど信用することはない。
理由は様々なのだが、大きな理由として


「脅かすのを第一にする霊視」


と言うのがある。
極端な例を挙げると、何かにつけて



「私は霊が見えるんだ」


「あ、後ろに危険な霊が憑いてるよ」



といった類の言葉を連呼するようなパターン。
もっとも実のところ、言っている本人も“ネタ”として言っているのだろうし、実際に彼是と問い詰めてみると



「見えるわけないじゃん」



と居直ってしまう連中が実に多い。
そんなものだから、どうしても最初から信じることは出来ず、「霊感がある」なんて聞くと、どうしても最初は凝視してしまう。

しかしこの“T橋”から、「霊感がある」といった言葉は一度も聞いた事がない。
ではなぜ彼女が“霊感持ち”であると思ったかというと、例えば彼女と街中を歩いていたときに、突然“妙な気配”を感じた気がして、そちらに目を送るってみるが、そこには誰一人いなかった。
何ともいえぬ不思議な感覚に襲われ、ただ周囲をキョロキョロと見回しながら、ふと彼女の顔を見ると、これまた意味深長な笑みを浮かべ



「見えた?」



なんて一歩間違えば、非常にお目出度い人種に見られてしまいそうなコメントを、その笑みと共に私に投げかけてきた。


それが非常に怖い…


もっと極端な時は、同様の感覚に襲われ、相変わらずの彼女の



「見えた?」



のコメントに、心地悪い涼しさを感じていたとき、続けざまに



「この周囲を探してみなよ、何かしらの“ヒント”があるよ」



と、摩訶不思議な言葉で私を困らす。
困惑しながらも、言うがままに周囲をくまなく調べると、約10メートルほど先にある踏切の手前に設置された公衆電話の脇に、目立たなくひっそりと


花束


が置かれていた。
これを発見した時、全身から血の気が引くような思いで出る言葉も見当たらず、後方にいた彼女の顔を見ると…



「ね♪」



なんて言いつつ、またしても意味深な笑みを浮かべていた事があった。
私の記憶の中でも、かなりの上位に位置する、実に恐怖な思い出である。

そんな数々の奇怪な出来事の末、ある時に


「ひょっとしてT橋さんは霊感持ち?」


と彼女に尋ねた事があった。すると彼女はまた、得意の笑みを浮かべながら




わたしが霊感持ちかどうかは分からないけど、うちのお母さんは間違いなく霊感を持っていたと思うよ。
田舎で暮らしていた頃なんて、近所の住んでいた人を見るなり

「あの人は(死期が)もうすぐだね…」

なんて言ったりしてね。全然元気なんだよ、その人…。
でも、それから数週間で本当に死んじゃってさ。
それとか

「その土地には絶対に近づいちゃいけない」

なんていう事もよく言われたし…。
なんでもその土地には、あまり良くない霊がいるらしいんだって。

だから霊感持ちはお母さんであって、わたしは単に“その血”を引き継いだだけ。
実際には年がら年中“それ”が見えるわけでもないし、テレビで霊能者が解説する霊が、わたしには見えない事も良くある事だし。
だから「霊感持ちですか?」と聞かれると、「どちらとも言えない」と言うのが本音なんだよね…。




といった事を答えていた。
実際に彼女には霊が見えていたのかは、彼女の“目”にでもなってみないと分からない事なのだが、私には彼女のこの控え目なコメントは、逆の意味で真実っぽく聞こえてきた。
最終的に、私はこの会社を退社してしまい、最後まで彼女の霊視力の真意を知る事は出来なかったが、数々の奇怪な出来事は、私の記憶の中に今も鮮明に残っている…。


そして彼女との“この類の思い出”は、いま書いているこのエピソードでも作られる事となる…。



その4へつづく…


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