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■第二十五話
真夏の夜のトンネル
〜10年前の出来事を改めて振り返って〜

注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです

■その4【これからの行き先】


さて、彼女との思い出はこの辺にしておき、話を元に戻すことにしよう。


「なんだか帰りたくないよね…」


と、視線を窓の向こうに送りながら寂しげなトーンで言う“T橋”。
彼女のその言葉に、バイト諸君たちも釣られ


「何所かへ行こうよ!」


などと始まってしまった。
翌日も仕事の身である私にとっては、正直辛い。
しかし、ここで「帰ろう」などと言ってしまっては、折角のこの和やかなムードに水を挿してしまう事となってしまう。
それは個人的に嫌な事であるし、それに“まだまだ遊びたい”と言う気持ちは、何より私自身も同じ事であった。


「海に行きたい」

「夜景が見たい」

「峠道を攻めましょう」


皆が自分勝手な事を言い始めるなか、


「心霊スポットに行こう」


などとメンバーの誰かがボソリと言った。
その言葉を聞いたバイト諸君は


「それイイですねぇ」

「それで行きましょう」


と、見事に同意してしまった。
そして今後の向かう先が「心霊スポット」に決定してしまうのだが、次に各地に散らばった心霊スポットのなかで、“何所に行くのか”という事が議論され始める。
様々な意見が交わされる中、またもメンバーの誰かが


「鎌倉のトンネルなんてイイんじゃない」


とボソリと言うと、その言葉に皆が同意する。


「それイイですねぇ」

「それで行きましょう」

「早く行きましょう」


バイト諸君たちは、逸る気持ちを抑えられない御様子であった。
何を隠そう、この随所で今後の行き先を“ボソリ”と述べたのは私なのであるが、この言葉に皆が同意し盛り上がっているとき、ほんの一瞬ではあるが顔色を曇らせたのが、紅一点のT橋さんである。

その顔色を見逃さなかった私は、ある種の“不安感”のようなものを覚えたような気がした。
しかしバイト諸君は、すでに意気投合し、早々と私の車に向かい


「早く行きましょうよ〜」


などと私に大声で呼びかけている。
気持ちは既に「心霊スポット」へと傾いている様子が、こちらにヒシヒシと伝わってくる。

レジにて会計を済ませ、バイト諸君が待ち構える車に向かう。
横には、先ほど“曇った表情”を見せたT橋さんが、何事も無かったかのように、ごく普通の表情で歩いている。


「…何か嫌な予感でもするんですか?」


そんな言葉を、ついつい彼女に投げかけてみる。
先ほどの表情を見てしまうと、こんな質問をせずにはいられなくなる。
彼女は一瞬「えっ」といった表情を浮かべたが、すぐに彼女特有のクールな顔にもどり


「別に…そんなんじゃないけどね…」


などと、またしても微妙な言葉を、得意の“意味深な笑み”と共に私に投げ返してきた。


「何かありそうですね…」


「いや、大した事じゃないよ」


と言った会話をしているうちに、私の車の前に到着した。
バイト諸君達は、夏特有の蒸暑い空気に晒され、額に汗を流しながら「早く車に入ろうよぉ〜」などと言っている。
さっそく車の鍵を開け、エンジンを回しエアコンを全開にし颯爽とファミレスを後にした。

向かう先は鎌倉…

あの、余りにも有名なトンネルである…


その5へつづく…

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