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■第二十三話
ワガイノリトドイテホシクテ…
: その2


注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです

■カーブの向こう


個人的に何かと気味の悪いその峠道なのだが、それを決定付けたエピソードがあった。

私と当時の職場の先輩と、車でツルみながらの帰宅途中に、この峠道に差し掛かった時である。
先頭を走っていた私は、


「ちょっとスピードを上げてみようかな」


と、好奇心が湧いたのか血が騒いだのか…とにかく途中の坂道でアクセルを目一杯踏み込み、車を加速させた。
その様子に気付いた先輩は、私の車との車間距離を一気に縮めてきた。
性能的に、私の車より数段上の先輩の車であったので、坂道で追い付かれてしまうのは当然として、


「さてさて…これから続くカーブで何所まで付いて来れるかな」


などと半ば意地悪な思いで、坂を上りきった地点から更に車を加速させた。
1つ目のコーナーを曲がりきり後方を確認すると…


「むむ…さすが先輩、付いて来ますな…」


その先に伸びるストレートは、流石に高性能な先輩の車であり、力を持余しているのを主張するかのように私を散々後ろから煽る。
直線では勝負にならないが、次から続くカーブ郡からが本当の勝負である。
その直線が終わる頃、それなりに減速し、コーナーのイン側をチラリと見ると…


そんな時でも現れるんですよ…例の“奇妙な物体”。


一瞬「あっ」と思ったのだが、スピードを上げている最中、当然そんなモノに気をとられていたら、それこそ危険だ。
即座に視界を前方に戻し、そのコーナーをクリアし、次のコーナーに差し掛かり、それを曲がり終えそうな私の車の前方には…



なんと!!



そんなクネクネな峠道の“ど真ん中”で、方向転換させている、即ち


“Uターン”


の真っ最中の車の姿が。




おいおいこんな時に!!

そもそもこの道はUターン禁止だろ!!




などと、その一瞬に思ったかどうかは実はあまり覚えていないのだが、慌ててブレーキを踏んだことは覚えている。
そしてその道路のど真ん中で往生している車の、本当に目の前で自分の車が止まってくれて安心した事、
そして次の瞬間に、



ゴツッ



よくドラマの事故シーンなどに使われる効果音などとは全く違う、何とも乾いた爆音が、強烈な衝撃と共に私を襲った事も刻銘に覚えている。

先輩の車は、ものの見事に私の愛車の後部にめり込んでいた。
俗に言う「オカマ掘った」というヤツである。
私と先輩は、颯爽と車から降り、そのUターン君を捕まえて



「なにさらしとんねんおんどれ!」

「ここでUターンはねーだろどアホ!」



といった汚い言葉で因縁を付けたかどうかは、この際“過去の記憶”に埋もれてしまい、忘れたという事にしておこう。
Uターンしていた彼も、自分が悪いという事を認識していたので、それ以上問い詰める必要もなく、とりあえず警察を呼び、ひと通りの状況を説明し、最後にUターン君の連絡先を控えさせていただき、その場から退散する。

その後、私の愛車は、先輩の保険にて復活する事となり、その保険の負担金をUターン君が支払うことで示談が成立したのだが…実はこの事を、私は“後日談”で知るのだった。




私: 「えぇぇ〜っ!先輩が払ったんじゃないんですか?」

先輩:「バカ野郎!なんでオレが払うんじゃい!!」

先輩:「だいたいあの野郎が“Uターン”さえしてなければ…」

私: 「…いや…オレたちスピードも出してたし…」

先輩:「オマエは黙っとけばええんじゃい」

私: 「…はぃ…」




何とも強引な先輩だが、今となっては古き良き思い出となっている。
ついでに峠道で私が見た“妙な物体”の事も、ついでに黙っておいたのだが、それもすっかり懐かしい思い出である。

そんなモンを見たなんて知れたら



「オマエが霊に睨まれたからじゃい」



なんて言われ兼ねないし…(汗)



そんな印象深い出来事の後も、この道は幾度となく通り、相変わらず「見える時には見える」といった状態だったのだが、やがてこの危険な峠道も、横に出来た新道の開通と共に、一部の“峠ファン”に惜しまれつつも閉鎖される事となった。

通る事がなくなれば、見る機会も流石になくなる訳であり、それ以降峠道に訪れる事もなく時は過ぎていったのだが…。





その思い出深い峠道を通らなくなり、数年が経過した。
私はその間に結婚し2人の子供にも恵まれた。
途中に実弟の死≠ニいう悲惨な出来事もあったのだが、とりあえず何とか人並みな幸せも手に入れた気もしないでもない。

そんな最中に、趣味として立ち上げた、この「路地裏」であり、現在も右往左往しながら、何とか“こじんまり”と運営している。
路地裏は、ご存知の通り“心霊”を題材としたサイトだから、運営当初こそ、心霊スポットを活字のみで紹介するに留まっていたが、やがて各地に点在する心霊スポットを、自宅から近い順に実際に訪れるようになった。

当然この峠道も、自宅から近く噂話もよく聞かれ、なにより私自身が若かりし頃に実際に“奇妙な物体”を目撃した事もあり、サイト運営初期には既に訪れており、すでに回数も3〜4回に及ぶ。
訪れた時の感想は、怖いというより“懐かしい”という気持ちに支配された。
すっかり遊歩道化されてしまい、路面には生々しいスリップ痕などとうに消え、緑の香りが心地よい市民の“憩いの場”となってしまったが、相変わらず蛇行する道程に、当時の面影がくっきりと残っている。

取り立てて“奇妙な物体”が現れる事もなく、よく有りがちな


「大した事のない心霊スポット」


と言う感じなのだが、かつて頻繁に“奇妙な物体”を目撃した場所だけは、あくまで個人的な意見だが、何とも嫌なものを感じた。
もっとも、過去の記憶が原因で、そういった心境になったのであろう…多分…


いや、分からない…

以前は過去の記憶から来る錯覚と思っていたが、ここ最近になり、“アレ”を発見してからは、


「単なる錯覚」


とは思えなくなってきた…。



その3へつづく…

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