■第二十九話
旧■■隧道にて

この作品は、以前に付き合いのあった知人から聞いたものを
私なりの言葉で書きました。
本来ならば、「投稿体験談」に掲載すべきなのですが、彼なら恐らく

「オマエが書いたんだからオマエの方に載せてよ」

というであろうと思い、私の体験談にて掲載することになりました。

国道246号線、神奈川県は伊勢原と秦野との境に
「■■隧道」というトンネルがある。
今でこそ「新トンネル」が出来上がり道は直線的になっているが、
その昔は蛇行するような構造になっており、
その道の途中に私が体験をした「旧■■隧道」はある。


旧■■隧道といえば、都心から程近く非常にメジャーな…というより
訪れやすいスポットともいえ、人によっては

「大して怖くもないスポットだよ」

なんて言われてしまうと思うかもしれない。
現に私も、そんな軽い気持ちで現地に向かった。


伊勢原側から旧■■隧道に向かったのだが、
途中には廃墟となったホテルらしきものもあり、何とも異様な雰囲気を感じつつも、
その先にあるトンネルへ向かう。
深夜とはいえない時間帯ではあったが、周囲はすっかり暗くなり、
そんな意味でも不気味さを感じつつ更に進むと、目の前にトンネルが現れた。

「目的地に着いたんだな…」

そう思った時、それまでは然程強く吹いていなかった風が、
トンネルの内部から私に向かって吹き付けてきた。

「えっ?」

と思ったのだが、トンネルの構造は真っ直ぐに伸びているので、
単に風が吹き抜けたのだと、その時は思った。
今にして思えば、何とも奇妙な風であったのだが、突然吹こうが何であろうが、
“単なる風”と解釈すればそれまでだし、その時も


単なる風だしな


なんて呟いていたのを思い出す。
しかし恐怖心を煽るのには最高の演出であった。



何度も内部に入るのを躊躇ったのだが、意を決し入る事にする。
内部は相変わらず風が通り抜けているみたいで、

「ゴォー」 とか 「ひゅぅぅ〜・・・」

といった音が鳴り響いていて、
とても平常心を保てるようなものではなかった。


「聞き様によっては人の声にも聞こえるなぁ」


そんな事を考えると、余計に怖くなってくる。
それでもどうにかトンネルの中ほどまで来たのだろうか。
入り口も出口も視界から消え、心細さも限界に来ていたような気する。

そんな時、何気なく風の音に注目してみると、それに混じって
何だか人間の声のようなものが聞こえてきたような気がした。
確かに風の音が人の声にも聞こえるな…とは前々から思っていたのだが、
それとは違う別の音…というか声らしきものが聞こえてきた。


「……よぉ……し……った…ぉ……」


文字にすれば、このような感じだろうか。
言葉にはなっていないのだが、まるで何かを訴えるかのような、
何とも切ない声が遠くから聞こえてきたような気がした。


(これはトンネルから出た方がいいかな…)


そう思い始め、引き返そうと思い来た道を戻り始めた。
ホンの数歩進んだ頃だろうか。
今度は入り口の方から、明らかに風とは違う音が聞こえてきた。


「カラカラカラカラ…」


何に例えていいのか分からないのだが、いま思うと
自転車だかバイクだかを手で押している時に鳴る音に似ている気がする。
もしバイクなどの乗り物であれば、それを押しながら人間が来るわけで、
恐怖心よりも安心するはずだが、その時は意味もなく


「何だか嫌な予感がする」


と、直感的に感じ、戻るのを止め出口に向かって走り始めた。
息を切らしながらも、ある程度走り出口も目の前になったころだと思う。
風の音は相変わらずだったが、妙な声も異音も聞こえなくなり、
ようやく安堵が訪れようとした時、私の頬に


“冷たい感触”


を感じた。
まるで手のひらで頬を


「ぺたぺたぺた」


と、誰かに叩かれたような…しかも生きている人間とは明らかに違う、
異常なまでの冷たい手で叩かれたような…そんな感触であった。
再び襲う恐怖心に、我も忘れその場から逃げるように走り、
国道246号まで逃げていった…。



これが私が体験した全てである。
周囲の噂で「あまり怖くない」なんて言われている場所でも、
タイミングなどの要因により、非常に恐い事が起きるんだな…
と、改めて感じたのであった…。


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