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■第二十四話
聞こえてくる音 : その3

注:この作品は当サイトのメルマガ「路地裏通信」で公開したものです

■目的地「散■ヶ池」



目の前に広がった「散■ヶ池」。
この池は、以前に訪れた事のある「S上池」と、何所となく似ている。
現に、この池を初めて見た時、


「以前に似たような場所に訪れたような気がする…」


と思えてしかたがなかった。
池の前に立ち、対岸に生い茂った木々を眺めながら、過去の記憶を脳裏から引き出す作業に没頭し、そして「S上池」の事を思い出した時に、


「ああ、そうだそうだ。よく似ている」


などと小声で呟いた程であった。
もっとも、木々が生い茂り、それなりの水を湛えた池であれば、どの池でも、何所かしらが似たように見えてくるのかもしれないのだが、私には「散■ヶ池」と「S上池」に、同じような雰囲気を覚えて仕方がなかった。


さて、そんな事を考えながら、湖畔に敷かれた道を歩き始めたのだが、間もなくして先に進む道が常に“上り坂”である事に気づいた。

何かしらの要因で溜められてしまった“水”というのは、ご承知の通り、地球の引力の関係上“水平”を保とうとする。
水の注がれたコップを、例えば斜めに傾けたところで、その水面は決してコップと同じ角度にはならず、必ず水平を維持する。
この現象は池にもそのまま当てはまる事であり、「散■ヶ池」も当然例に漏れる事は無い。

しかし進むべき道は、先程も言ったとおり

「上り坂」

…である。
気が付けば、「散■ヶ池」と私との位置関係は徐々に遠のき、その差は

5m…10m…

と広がっていった。
現地の地図を事前に確認た時に安易に


「湖畔をひと回りする道」


と勝手に思い込んでいただけに、この現実は精神的に堪える。
外周を歩きながら、池の写真を撮影しようと思っていたのに、現状は単なる「山歩き」なのだから…。

スタートから20分も経過した頃には「散■ヶ池」の姿など全く見えず、目の前には濛々と木々が立ち込め岩盤が顔を覗かせ、そして時折リスの姿が…。


「池に訪れたのに何で“山歩”きやねん」


なんて小言を、人気が無いのをいい事に、思わず少々大きめな声で発する。俗に言う


「ブツブツ…」


というやつだ。
そんな半ばふてくされた状況でも、写真撮影を怠らない自分は、なかなか可愛いヤツに、我ながら思えてくる。


「まぁこんな写真でも、何かしらネタにはなるだろうし…」


といった具合で、水気など全く存在しない森にカメラを向け、シャッターを押し続けていた時、何やら聞き慣れた


“音”


が私の耳に入ってきた。
その音は、文字で表すとなると



プー…プー…プー…プー…



となるのだが、これでは何の音だかは見当も付かないであろう。
いや、私も実際にその時、周囲から聞こえてくるその



プー…プー…プー…プー…



という音が何の音であるか、さっぱり分からなかった。
そして聞こえてくる音の位置も、全く見当がつかなず


近くで鳴っているような…しかし遠くから聞こえてくるような…


といった感じであり、何とも不思議な聞こえ方であった。

その不思議な音が妙に気になり、歩くのを止め、撮影を中断し、その聞こえてくる音に、しばらく神経を注いでみた。

そしてその「聞こえてくる音」が、私の身近に存在する



ある音



と非常に良く似ている事に気が付いた。



「この音って…」




その4へつづく…


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