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■第十九話
神社の写真:その3

それにしても、この現地の異様な雰囲気は何なんだろう…。
身体の全てを覆うかのような、独特の空気。
歩くたびに身体に纏わり付き、それをかき分けて進んで行くかの様な感覚。
「夏場の湿気のせい」と言えば、それまでなのだが…。
例えそうだとしても、この状況下に置いて“それ”は、恐怖感に拍車を掛けるには、十分過ぎる材料だと思う。

1歩進む度に周囲を確認しながら歩く。
何か物音がすれば過敏に反応してしまう。
カメラのフラッシュで浮かび上がる現場の姿を見る度に鼓動が大きく波打つ。

この恐怖感は、最近の探索でも久しい。
1歩1歩進むのに、これ程までの“重さ”を感じたのは、ひょっとしたら初めてかもしれない。

“怖い”

安易な言葉ではあるが、これが率直な気持ちであり、その時の心境を表す一番の言葉だと思う。

恐怖心に押し潰されそうになり、思わず後ろを振り返る。
停めてある車に飛び乗り、アクセルを一気に踏めば、この現場から離れられる。
そう思いつつも、結局は前に進む事を選択した。
それは責任感なのか、それとも“コンテンツ充実”という邪な思いなのか、それともただ単に興味本位なのか…。
全てに当てはまる気もするし、そうでない気もしてくる。





杉の木が両脇に聳え立ち、若干勾配のついたお粗末な参道が真っ直ぐに伸び、その通りの、ほぼ中央に鳥居が設けられている。
撮影をしながら、その鳥居を潜ったのだが、たったそれだけの行為が、やたら怖くてしょうがない。
かなり神経が過敏になっているらしい。

その鳥居を潜った辺りから、前方に“小屋”らしき物が見え始めた。
恐らく…と言うより間違いなく“それ”が神社なのだろう。
鼓動は「ドキン」どころか、終始大きな波を打ち続けている。
この時、昂った心境を落ち着かせようと、現地の情報を思い出してみる事にした。

「昼間ですら薄暗く不気味な神社」

なんて事が書いてあったなぁ…。

「子供の霊が出る」

なんて情報を何処かで見た気がするなぁ…。

「首吊り自殺が起きている」

との情報が…。

そう思った瞬間…。

私の首筋に、妙に生暖かい空気が流れ過ぎていく気がした。
これは恐らく“気のせい”なのであろう。
“首吊り”を意識した時、自分の首筋に神経が集中した為に、そんな錯覚を起こしたのだと思う。

本当に錯覚なのか?

“気のせい”にしては、ずいぶんリアル過ぎはしないか?
生暖かい風が、都合よく首筋だけに流れて行くのだろうか…。

その場で考えても、答えなんて出る訳がない。
その場を離れる様にして先に進む事にした。





神社の前に立つ。
鬱蒼とした森の一部をくり貫き、その空間に、とても小さなお社がポツンと建っている。
実に不気味で、なおかつ寂しげな空間である…。

遅れ馳せながら、一連の行動を執った後、再び撮影を開始する。
周囲は虫や小動物の鳴き声などで、終始うるさく感じる。
そして時折「ガサガサ」と何かが草木を割って移動するかの様な音。
これには心底驚かされた。

神社のスペースは然程大きくもないので、撮影も境内まで来てしまえばそう時間はかからず、ある程度写真を撮れば神社の大体の物を撮影できてしまう。

その撮影をほぼ終えて、再びお粗末な参道に向かう。
不気味に立ち並ぶ杉の木の間を再び、そして未練がましく写真撮影をしながら歩く。

目の前には鳥居の姿が…そう思った瞬間

“すぅ〜…っ”

と、またしても私の首筋に生暖かい風が流れた気がした!

「単に風が吹いたんだ」

「首だけに風が吹くのか?」

「鳥居を見た瞬間“首吊り”を思い出したんだろう」

「それにしても生々しいじゃないか」

そんな事を頭の中で考えているうちに、気が付けば小走りで走っていた。

“その場から離れたい”

と言う思いが、勝手に小走りにさせたのであろうか…。





神社の入り口まで戻ってきた。
周囲の暗さは、神社の中と然程変わらないのに、何故か安心感が沸いてくる。
さあ車に乗って、この神社から立ち去ろう。

車に乗り込み、エンジンを掛ける。
バックミラーは正直、確認できなかった。
何かが覗き込んでいそうな…根拠なんて何も無いのだが、そんな気がして…。

マナー違反なのだが、後方確認を怠り、その場を離れる。
来た道と同じルートで現地を後にする。
帰路の途中、首筋に感じた“生暖かい風”の事が頭から離れなかった…。
あの現地の“トータル的な恐怖”が頭から離れなかった…。





それから3ヵ月後…。
私は再びこの「■木神社」の前に立っていた。
季節は変わり、現地はすっかり涼しくなり、そして当日は雨上がりの湿ったコンディション。
今回は、カメラ撮影と共に、ビデオ撮影も行った。
現地の雰囲気は、涼しくなった事と、虫の鳴き声が無くなった事意外は全く変わっていなく、そして内部に進む私の足取りも、依然と変わる事無く…。

“不気味さ”は、以前と全く変わらない2回目の探索だったが、“首筋に生暖かい風”は、今回は感じなかった。

「やはり“気のせい”か、季節特有の“湿気のせい”なんだろう」

そう思いつつも、相変わらず現地で「びくびく」しながら、ようやくカメラ、ビデオ共に撮影し終え、現地を後にした。

そして帰宅後、早速写真のチェックを開始するのだが、撮影した写真を確認しながら愕然としてしまう。



例えばこんな写真で…







この写真を自宅のPCで見た時…



首筋に感じた生暖かい風は…



“気のせい”であると…



信じたい…



え?



今また………。


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