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■第十六話
実家の怪:顔

私が20才の頃の話です。

いつもの時間に目覚め車に乗り込み会社へ向かった。
通常通りの日常こなしている、ごく普通の生活リズム。
しかし、妙な「不安感」のような物が、その日に限ってはあった。
何故だかは分らないのだが…。

とはいえ社会人となって、早朝から慌ただしい毎日となり、妙な不安感を抱いたからと言って、いちいち行動を止めている余裕なんてものは無かった。
不安感を抱きながらの通勤…。
しかし朝の道路状況は時間との戦い。
必ず巻き込まれる交通渋滞まで、果たしてどこまで進めるかが大きなポイントとなる。

寝ぼけ眼のままバックミラーに目をやる。
特に後方から追いかけてくる車も無い。

いつも使っていた、川沿いの抜け道を走っていた時、何気なしに再びバックミラーに目を向けた。


「!」


思わず我が目を疑う。
一瞬「何故その様なモノが」と考えた。
恐怖に怯えながら…。
しかし、考え始めて十秒と経たないうちに、思い当たる「出来事」が頭をよぎった。
それは昨日の夜の出来事であった…。





当時付き合っていた彼女とは、毎日の様に会っていた。
お互い会社が終わると、彼女の会社近くの本屋に待ち合わせていた。
特に何をする訳でもないのだが、毎日会う事が楽しくてしょうがなかった。

食事をその辺のファミレスで済ませ、その後は必ずドライヴと、行くあてもないまま最終的に、彼女の自宅付近である津久井湖周辺に向かう。
現在では深夜に入れない駐車場も、当時は平気で進入できた。
そこに車を止め、他愛の無い会話を数時間…。
不思議なくらいに尽きぬ会話、楽しくてしょうがなかったのであろう。
時間はあっという間に過ぎて行く。

ただ気になったのは、津久井湖に着き、駐車場に車を止めてから妙な寒気を感じていた。
しかし特に何が出現した訳でもなく、心霊スポットであると言う予備知識が緊張感を与えていただけだったのかもしれないと思った。

時間になり彼女を自宅まで送る。
次の日にまた会えるのに、無性に寂しい瞬間だ。
彼女を無事に自宅まで送り届け、自宅に向かったのだが一人になると、津久井湖で感じた寒気が、より強く感じ取れる。
理由の分らない不安感を時折感じる時は、以前から多かれ少なかれあった。
そんな時には必ず良い事は無い。
学校で集団イジメを食らった時も、飼い猫が死んだ時もm何かしらの不安感が思えばあった。

すっきりしないまま、何とか無事に帰宅したのは午前一時近く。
当然の事だが、帰宅後は即睡眠となるハズなのだが、その時は全く眠れなかった。
その事は今でも良く覚えている。
実際に寝たのは、確認こそしていないが、恐らく三時頃ではなかっただろうか。

眠りについてどのくらいの時間が経ったのか、強烈な金縛りが我が身を襲い目覚めてしまった。
生まれてから三度目の金縛り体験であった。

前回の金縛りの際には、気持ち的には余裕のあったのか、目線を周囲に配り部屋の様子を確認出来るほどに楽しんでいた。
しかし今回の金縛りは。そうも言っていられなかった。
金縛りと一応書いたが、実際は私の体を上から押さえ付けられる感覚だろうか。
衝撃が走り、一瞬のうちに目がさめたのだが、体をグイグイ押される上に、今回の金縛りは目が開けられないのである。
当然ながら普通ではないと即座に感じ、ただただ為すがままの状態でであった。

心の中で

(何とか目を開けられないか)

と考えた。
思いっきり目に力を入れ、空ける努力をしてみると、少しずつ開いてくる。
何とか私の部屋の中を確認出来る視界が開けた。
眼球の運動のみで、まずは自分の体の上を見てみる。
不思議なのが、相変わらず「グイグイ」と上から押されているにも関わらず、視界には何も無い。
こうなってくると、かえって気味が悪い。
それから、眼球運動で確認可能な範囲を見まわす。
各個所に目をやり、通常通りの部屋であると思いつつ、動きの遅い目線を別の方向へ送ると、一つの部屋の変化に気付いた。


押し入れが開いている!



ベッドで寝ていた為、殆ど空ける事のない押し入れが何故空いていたのである。

そんなバカな…。

そんな事を思った次の瞬間、私の血の気が一気に引いたのは忘れもしないし、今後忘れる事は出来ないであろう。



押し入れには光源となるものは何もない。
しかし、その暗いはずの押し入れは、何故か青白い鈍い光があふれていた。
そこに焦点をあわすと、その中に


うつむき加減の髪の濡れた女性の顔だけが浮かんでいた!

しかもその顔は、押し入れいっぱいと言っても良い程の巨大さなのだ!



何が何だか理解できず、とにかく本能的に「危険」と感じた私は、とっさにお経を唱えられる様な余裕ある心理状況では無かったのだろう。
ただ一つ心の中で思った言葉、それは



「負けてたまるか!」



それだけであった。
それだけを心の中で何度も繰り返していた。

うつむき加減の巨大な女性が、ゆっくりと顔を持ち上げ始めた。
恐怖心は増すばかりだ。
徐々に顔が見え始めた頃に、私の恐怖心は最大になってしまったのだろうか、そこで私の記憶は途切れてしまったのであった…。





翌朝起床し、車に乗り、いつもの道を慌しく走る。
川沿いの道を走りながらバックミラーを見た。
私は恐怖に怯えながらも、車を止めれる所まで走らせ、即座に車を降りた。
自動販売機でコーヒーを買う。
震えながらタブを引き手にコーヒーが着いてしまったが、そんな事は全く気にならなかった。
ただ気になった事。
それはバックミラーいっぱいに


昨日に押し入れに現れたでろう、髪の濡れた女性がの顔が映り込んでいたこと。

うつむいていた女性が顔を起こし、ついに目を見開き私の事を見た事。

その目が異様に寂しげであった事。

そして何故か、私の車はこの先長くないと直感的に思った事。


実際に、この時より一ヶ月経たないうちに、当時の愛車は貰い事故により廃車となっている。
そしてその事故により、私は病院送りになってしまった。
後遺症の残る様な大した怪我ではなかったのだが…。





この話は、私の中では「とっておき」の部類(?)なので、暫くは書かないでおこうと思ってた。
しかし先日、実家の跡地を探索に行った際の撮影写真に、大きな顔が映り込んでいた為、これは書かねばと思い書くことにした。

あの顔は、果たして私が見た髪の濡れた女性なのかはハッキリとは言えない。
しかしもしそうであれば、あの霊は土地に憑いた霊となりそうだ。
今まで津久井湖から連れてきたとか、血筋が絡んでるとか色々考えたが、同一であれば出所はハッキリする。

もう一つ。
思い切って書いてしまうが、あの土地では短期間に、病死二人、事故死一人と、立て続けに人が亡くなっている。

「呪われているのでは?」

とは疑問に思っていたのだが、それは思えば幼少の頃より何気なく感付いていたのかもしれない。

「何かおかしいよ」

と、事あるごとに親に訴えていた。
しかしその訴えは、実の親にさえ真面に聞き入れてもらえなかった…。


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