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■第十話
踏切

私が19歳から21歳までの間、某■■■ツという会社に勤めていました。
その会社は横浜線の中■という駅の周辺にありまして、私は電車でそこまで通っていました。

駅を降りて会社に向かう途中にその横浜線の踏切があります。
交差点の一方が踏切と、いかにも渋滞しそうな道路構成に裏切る事無く渋滞が慢性化する自動車通勤泣かせのポイントであった。

初出勤の時を思い出す。
緊張しながらの通勤、電車を降りその踏切前に電話ボックスがあり、その脇に


花束


が添えられていた。
恐らく事故か何かで亡くなられたのであろう花束の数が、故人への悲しみを想像させる。

それから毎日の慣れない社会人生活の為か、踏切の片隅に目を向ける余裕すら無い程に慌しい生活が過ぎて行く…。

どのくらい経ってからだろうか。恐らく半年以上は経っていたと思う。
ふと踏切の電話ボックスに目を向けると、初出勤時と同じような花束がそこにはある。
全く同じ個所に…。
私は

(相当悔やまれる死だったんだろうな)

と思い、そしてまめに花束を供える方々の優しさに関心しました。

それからです。
その踏切の片隅に注目するようになったのは…。
気が付くと、そこには真新しい花が、常に添えられている。

そんな事が2年続き、私は別の部署へ転勤が決まりました。
最後だから聞こうと思った訳ではないのですが、それとなく会社の先輩に聞いてみた。


「ここで亡くなられた方…相当悔やまれる死だったんでしょうね?」


すると先輩が目を丸くして


「お前、知らないの?ここは事故が多い場所で何人も死んでいるんだよ!」


続けて先輩が語る。


「だからここは花束が絶えない程、事故で死んでいるんだよ…」


私は思わず絶句した。
そうだったのか…。
そう言えば仕事中に救急車のサイレンが頻繁に聞こえていた記憶がある。
私が絶句し、驚いている顔を見て、先輩は満足げな顔をしていた。
きっと私を驚かした事にご満悦なのだろう。
しかしその先輩は、私が絶句したもう一つの理由は知らないであろう…。

その花束の事実を聞かされた瞬間、その供えられていた花から

白い半透明の物体が先輩の体をすり抜け踏切の中に入り、そして消えていった事を。

私は、この事実を伝えぬまま、他の部署へ転勤してしまった。
その先輩ともそれ以降付き合いは無い。
その後の彼の安否が気になってしょうがないが、転勤先での噂で、その先輩が会社を辞めたという話を聞いた。
その後の事は全く分らない…。

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