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□この話は「pin様」が、
2002年8月12日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第四十七話
出血のあと

それまで、大きな病気ひとつしなかった母が脳溢血で倒れたのは、昨年ちょうど夏のこの時期でした。
特にこわいというお話ではないのですが、不思議な話ということで、扱ってくださいまし。





お風呂にはいり、洗髪中に突然身体の異変を感じた母は、そのあとすぐに衣類を身につけ、そのまま自分の部屋で倒れました。
私は結婚して家を出ているので、意識のなくなる最期の様子は目にすることはできなかったのですが、救急車に乗り、本当に自分の意識がなくなってしまうまで、自分の住所や年齢をはっきり言えるほど、しっかりとした態度?だったそうです。
それほど、気丈な人でした。

脳死…

という状態って、いかなるものなのでしょうか?
一体、どこまで本人の意識が関わっているモノなのでしょう?
病院で、変わり果てた姿の母を見ると、私は一言も言葉を発することが出来ませんでしたが、そのとき腕に抱いていた、母のいちばん可愛がっていた私の息子、母にとっては孫、その子がぐずって泣き出したとき、
意識の戻らない母の瞳に、明らかに大粒の涙が浮かんでいたのを覚えています。





その翌日の朝のこと。
私の兄が、


「朝起きたらな、下着の前の部分に、赤い出血のシミが残っていたんだ」


と言いました。

私は思わず


「それって○ぢゃないの?」


ってつっこみを入れてしまいましたが、兄の顔は真剣で、


「それだったらパンツの後ろだろう?前なんだ。ちょうど足の付け根だ」


と言いました。
そのとき、私も私の兄も知らなかったのですが、前日夜中の母の手術の折り、ちょうど太股の前側、足の付け根のところから、頭までカテーテルを通して脳内の出血を取り除く手術をしたのだといいます。


母は、その後二週間の寝たきり入院生活を経て、意識を取り戻すことなく逝ってしまいました。


母は、兄のことを一生涯かけて、いちばんに大切に愛していました。
そのことを思うと、突然意識のなくなってしまった自分を歯がゆく感じ、兄に、そのとき(手術中)自分がどういう状態だったのか、どのように辛かったのか、伝えようとしていたのかなって、思います。

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