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□この話は「Air Head様」が、
2002年6月21日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第四十話
あなたは誰?

またまた思い出した話、というか不思議な体験があるので投稿します。
これは私自身の体験で、高校1年生の頃の話です。



その頃色気づいてきていた私は、用も無いのに広島(地元)の繁華街を、休みの度にうろつくという習慣がありました。

CD,洋服、時計、女の子…

見るものが全部自分を祝福しているように思っていた頃の事です。

その日も私は、金も無いのに靴屋を回ってCONVERSの新作をチェックしていました。
次の店に行こうと思い、横断歩道をわたろうと信号待ちをしていると、向かい側にいる女の人と目が合いました。
その人は私と目が合うとにっこりと微笑むのです。

きれいな人でした。

が、見覚えがありません。

近所に住んでる人かな、と思って会釈をして、その人とすれ違いました。



そして次の週末。新しいCDを見に行こうと思って同じところを通ると、またその人がいます。
そして私と目が合うとにっこりと微笑むのです。
それは本当にキレイな笑顔でした。しかし私はその人が誰か分かりません。
それでも私は嬉しくて、少し照れながら会釈をして通り過ぎました。

それから2ヶ月余り、同じ場所で同じような事がありました。
私はこんな若造に微笑みかけてくれる美しい人に、ほとんど恋に近い感情を抱くようになりました。
それでついに、次にあった時には話し掛けてみようと決心しました。

意を決して週末の午前に取って置きの服を着ていつもの場所に向かいました。
その日は少し冷たい風の吹く良く晴れた5月の日でした。
足取りも軽くその場所に向かうとその人はいませんでした。
がっかりした私はそれでも会えるかも、と思って辺りで時間をつぶしたりして待ち続けました。
そして夕方になってもうあきらめようかと思った時、夕焼けの空に赤く照らされて、その人はそこに立っていました。

私は彼女を見ています。

彼女も私を見ています。

でも、目が合ってもその日の彼女は笑いません。

私は信号が青に変わるまでに何度も深呼吸をし、自分の気持ちを確かめ、そして信号が青になり、ゆっくりと彼女に近づきました。

彼女もゆっくりと歩いてきます。

…そしてどんどん距離が近づき、彼女に話し掛けようとした時、
彼女が先に、私の目を見つめたまま、にっこりと笑って……………



「私が誰だか分かりますか?」



……………………



私は何も言えず、呆気に取られて美しい彼女の顔を見つめていました。
馬鹿みたいに。
すると彼女は少し悲しそうな顔をして、それでも笑顔のまま、ゆっくりと歩き出し、そして通り過ぎていきました。

私は、信号が赤になってタクシーにクラクションを鳴らされるまで、そこでボーッとしていました。
その時にはもう彼女の姿はありませんでした。



それ以来、その人の姿を見る事はありませんでした。
あの時、何か返事を返せていたらもっと違う結末があったのでしょうか?
私は今まですっかりこんな事があったのを忘れていました。
きっと悲しい事は忘れてしまった方が楽だからなのでしょう。


私がずっと前に恋した人………


あなたは誰だったのですか?

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