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□この話は「やぶ医者様」が、
2002年6月5日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第三十四話
忍び寄るもの

学生の頃、ポリクリという実習があった。
全ての科を2週間程度の期間、実習に回るというものだ。
もちろん病棟にも回るし、実際に患者さんを受け持ったりもする。
大学以外の病院で実習することもあった。
これはそんな、外病院での実習の時の話。





その病院は、川沿いに存在していた。
新しく、綺麗な病院だが、川向こうの国道までは歩いて15分以上かかった。
その病院で一週間、実習することになっていた私は、実習が終わった初日の夜、タオルを持って来るのを忘れたことに気が付いた。
明日、病院の売店で買っても良いのだが、星が綺麗だったこともあり、国道のコンビニまで歩くことにした。

山沿いの村に存在する病院のため、5月といえど、夜は大分冷えた。
コンビニで目的の物を手に入れた私は、病院に一番近い小さな橋を渡って戻ろうとした。
行きもその橋を通ったのだが、なんとも嫌な感じのするものだった。
しかし、これ以外の橋は、車が通れる大きさだがだいぶ遠回りになる。
しかも、山向こうの市に行く国道になっているために、夜間も車どおりが激しく危険だった。

街灯が一つしかない橋の上は、川の流れる音が不気味に思えた。
そそくさ通り抜けようとした私は、物音に立ち止まった。
私はその時、橋の半ばにいた。物音はその背後から聞こえてきた。
そっと振り返ると、何かの影が見えた。
しかし暗い街灯の元、しかも私の方が明るい所にいたため、それは良く見えなかった。
なんでもないのかと、私がそれに背を向けようとしたとき、再びがさっと音がした。
私は振り返って驚いた。


そこには、人ぐらいの大きさの影があった。

しかし、人ではありえない形態をしていた。

しいていえば、尻尾のないトカゲに似ている。


「……?」


不意にそれはがさがさと音を立てて近づいてきた。
その余りのスピードに、私は逃げることさえ忘れていた。
本当に、すべるような速さだった。
それが1m位の近さまで近づいてきた時、


ばちっ!!


電気のショートするような音がした。
反射的に目をつぶった私は、しばらくしてから恐る恐る影のほうを見た。



そこには何もいなかった。

あの影はなんだったのだろうか?そして何が起こったのだろうか?

とりあえず、私はその場を逃げた。





自分の宿泊している部屋に付いてようやく落ち着いて、ふと私は、幼馴染にもらった水晶を身につけていたことを思い出した。
彼のくれたローズピンクの澄んだ水晶を、私はペンダントにして掛けていたのだった。
彼は代々陰陽師の家柄の人で、彼自身も陰陽師としての将来を定められていた人物だった。
私はそのペンダントを外して見てみた。
明かりにかざすと、

もらった時にはただ澄んでいたはずだった

水晶に異変があった。


薄っすらと水晶の中に浮かんでいる、五芒星―――。


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