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□この話は「アキ様」が、
2008年3月4日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第二百八十話
旧大橋で

今から30年近く前の夏の話です。

後輩達2名と私計3名で当時免許を取って、車の運転が好きだった私は、同じメンバーで毎日色々な所にドライブをしていました。
この日は夏休み中だったので、少し遠方に行こうと相談し、私の母の実家である福島県まで行く事にしました。
母の実家の地名は「霊山町(りょうぜんまち)」と言う、良く考えると何となく気味の悪い地名です。因みにですが、霊山町は2006年に周辺の町と合併し「伊達町」となっています。

当時ナビ等無く、道は殆どうる覚えでしたが、東京から東北自動車道で約2時間、福島西インターで下り、更に1時間半走りました。
其処は民家が当時20〜30件位の集落で、今では珍しい茅葺屋根の古びた建物ばかりでした。
しかし、町の近くまで来ているのは解るのですが、その集落に入る道が解らりません。少し迷いながら、田んぼや畑に囲まれた道をさ迷っていましたが結局解らず、国道に出てしまいました。
時間も夜中の1時前後だったと思います。

別に母の実家に行った所で、こんな時間だから何も出来ないし、確たる目的もありませんでした。なので探すのを諦め、地図を頼りに相馬港に行こうと言う話になり、国道を相馬方面に走り始めました。

車は今の若い方は知らないと思いますが、ホンダ「N360」と言う空冷の非力な軽自動車です。それもその時点で可也ポンコツでした。
そんな頼りない車で、ろくに舗装もされていない山の中の砂利道をトコトコ走り続け、若干の下り坂に差し掛かりました。

その先には、山と山の中腹を繋ぐ大橋が有ります。
長さは大よそ300m、谷底までは100m位は有ろう橋で、今では旧大橋となっており封鎖されています。
その橋を渡り掛けて直ぐに、何だかエンジンの調子がおかしくなり橋の3分の1付近でエンジンがストップしてしまいました。エンジンだけでは有りません。電気類も完全に消えてしまい全ての機能が停止しました。

辺りは街灯など無く真っ暗。

橋の左右は高い山に囲まれています。

でも、その日は雲一つ無い空で、月明かりだけが青白い光を放っていました。
お陰で目が成れてくれば、人の顔も何とか見えるような位の明るさです。
幸い同行メンバー全員が整備士でしたので、懐中電灯片手に車から降りてボンネットを開け覗き込んで

「何が悪い?」

「何処が悪い?」

などと話し合いながら、バッテリーを触ったりエンジンのプラグコードを触ったりしていると、ヘッドライトが点きました。原因は解りませんが、ともかく全員車に乗り込みエンジン掛けようと、キーをひねるとセルモーターが弱々しくやっと少し廻るように成りました。こう言う時の基本は、電気系を全部オフにしてセルモーターに電気をより一層流してやるので、ライト関係は全てオフにしていました。

そんな中、何となしに橋の先数10mを見ると、地面から湯気の様な物が湧き出ています。
良く見ると、少々青味がかった色で、温泉街のそれとは違う感じ…。
良く温泉街などのマンホールの穴から白い湯気がたっていますよね?その様な感じで、最初は薄かったのですが、段々濃く成るような感じでした。
しかし、橋の上ですからマンホールなども有る筈も無く、何と無く違和感を覚えました。
すると助手席に乗っていた後輩S君が

「あれ何ですかね?」

と指を指しました。それは右手の山頂でした。
丁度その指差した山の裏側の上空に月が有り、月明かりで山がシルエットで浮かび上がっています。
その山頂付近を見ると、何やら青白い雲(?)の様な物が浮かび上がっていました。それを見ていると、何やら渦を巻いて“クルクル”と廻っているような感じに見えました。
全員絶句して見ていると、段々ハッキリ見えるようになり、大きさも少しずつ大きく成って居るように思えました。

その瞬間、その渦巻いている青白い雲の様な物は、山頂から山肌を伝って此方に向かって転がるように降りてきました。物凄いスピードです。

山頂までは目測200〜300m以上は有ると思います。
山肌には針葉樹が生えていますがその上を転がるように下りてきます。
全員無言で…と言うより、余りの恐怖で声が出ませんでした。

雲の様なものは、山肌を抜け橋に差し掛かり、私達の乗っている車の前数メートルの所で一瞬止まりました。
その瞬間、その雲の様な物は形を変え、

真っ白い髪をした白装束姿のお婆さん

の形になり、大きな目をカッと見開きました!
口からは白い大きな牙の様な物を出し、此方を睨み続けました。
時間にして、およそ2〜3秒でしょうか。我々全員目が合いました。
そんな時、後ろに乗っていたT君が恐怖に耐えかねたのか

「うわーっ!」

と叫び声を上げた途端、白装束姿のお婆さんは、左の山に駆け上っていきました。

その後、全員慌てふためいて、私は何しろ車を動かそうと、動揺しながらもキーを触ったり色々遣っていました。そんな状況のなか、サイドブレーキを解除した途端、下り坂だったので車は転がりだしました。
ある程度スピードがついた所で、ギアを3速に入れてクラッチを離すとエンジンが掛かり、そのまま一目散にその場を逃げました。

山間の未舗装のクネクネ道を、恐怖のあまり誰も言葉を発しないまま数10分走ったところで、灯りの有る集落に出ました。怖さから解放されたのか、誰からとも無く

「あれは何だったんだろう?」

と震えた声で話し出し、私も車を止めました。
ハンドルを握る手が中々開かず、ハンドルを離す事が出来ませんでした。
車はその後、何も無かったように調子は良くなりました。

あれは何だったのだろう……。



それから数年後、そんな恐怖の出来事も忘れかけた頃、母の実家に行く事がありました。相馬港に魚を食べに行こうという事になり、車で向かっていると

「旧大橋」

と言う看板を見つけました。

あれ?

と思い良く見たら、確かに昔に通った道でした。
あの時の恐怖の出来事がよみがえり、と同時に

「何故そんな事が起きたのか?」

といった疑問が浮かび上がりました。
その車中で、実家の人に過去に起きた出来事を話すと、こんな答えが返ってきました。

確かな話ではないのだが、江戸時代あたりには、その谷底に処刑場が有ったそうだ。そんな歴史的背景があってかは分からないが、橋が架けられた後は飛び降り自殺の名所に成っていたそうです。

あのお婆さんが、何時の時代で何が有ったのかは解りませんが、

大きな目をカッと見開いた、あの顔は忘れられません…。

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