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□この話は「オズ様」が、
2012年6月16日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第二百七十一話
祟るものたち

僕の息子が小学校に上がった頃ですから、6年前に我が家に降りかかったことです。
今考えても全く理由が思いつきませんが、当時僕ら夫婦に突如離婚の危機が訪れたんです。
僕に思い当たる理由は本当に全くありません。
顔を合わせれば妻が逆上し、手に負えない状態になります。
それが何日も何日も続きました…。
最初は妻の浮気なんかも疑ってみたんですけどね、実は全然違う理由だったんです。

僕の住んでいるマンション、11階建てですが山の斜面に建っているのでマンション横の坂道を上がった7階にあるサブエントランスからだと、11階にすんでいる住人は5階の高さでしかない。
僕の住んでいる部屋は4階、山の中腹くらいで窓を開けてテラスに出れば、目の前に空き地があり、その向こうが先ほど言った一階のメインエントランスから7階のサブエントランスへ続く坂道がある。
つまり、僕の部屋は4階とは言え、実質1階のようなもん…。
この部屋で10年以上暮らしているんですけどね。
で、6年位前にそんな離婚騒動が起きたわけです。

最初はそれでもまぁ理由はまったくわからないけど普通に喧嘩でした。
普通に喧嘩って言うのは、普通に人間同士の喧嘩って意味です。
それが日を追うごとに凶暴化し、目は獣のように血走って吊りあがり、涎を垂らしながら意味不明な叫び声をあげながら襲い掛かってくる…
夜中に家の中をウロウロする…
妻に懐いていた犬たちでさえ警戒をしている…
喧嘩の最中で、本当に包丁振り回したりする…
こりゃ何か動物系のものが入ったか?なんて思ったり…

当時は家に帰るのが苦痛でした。
夜中に殺されるんじゃないかと心配でなかなか眠れなかった…。
その頃、テラスの先の空き地に家を建てるみたいで、朝から夕方までガンガンとうるさかったっけ…。

ちょうどそんな時、僕の部屋の真上に住んでいる家族のご長男が交通事故で亡くなりました。
横断歩道を自転車で渡っているところ、信号無視してきた車に撥ねられたそうです。
それから、更にその上の部屋の方も何かで大怪我したようです。
いろいろ話を聞いていくうちに、マンションのご近所さん皆の家庭で何かしらの事件が起きていることに気づきました。

僕のマンション、先ほど説明しなかったんですが、平仮名の『く』の字型をしています。
その下半分に当たる部分の部屋で何らかのことが起きているようです。
さすがに本気で何かの祟りじゃないか?って思ったりしました。
そんな中でも家を建てる音がガンガンと鳴り響き、僕の精神状態はギリギリのところにいました。

ある日の夜、僕ら夫婦を心配して親友が夜中に駆けつけてくれました。
僕もギリギリで電話で泣きついていたんです。
地元から約100km近い距離を夜中にわざわざ来てくれました。
この親友、実は以前書いた話『とても不思議だったこと』でも出てきた男Tで、この頃は八王子から地元に帰ってたんです。
かなりの霊感の持ち主で、運転する車の前に現れた霊に対して

『邪魔だ、どけ!!霊でも轢いたら気分が悪いわ!!』

と怒鳴りつけるほどの豪胆の持ち主でもある。
そいつが電話で話しただけで『ちょっと気になるから』って駆けつけてくれた。
顔見た瞬間、何でか涙が出た…。
Tが家に入るなり

『お前、ちょっと出ててくれるか?二人(嫁さんと)で話をしてみる』

と言い、僕は仕方なく別の部屋に入ってました。
5分後くらいです。
部屋から出てきたTが僕にこう言いました。

『お前も気づいてるよな?気づいてるはずだ。ありゃ狐だわ』

と言います。
実際、さっきも言ったようにそんな気はしていたんです。
なんとなく…。
Tが言うには

『○ちゃん(嫁です)に入った根本的な原因がよくわからん。単純に狐が憑いただけでもなさそうだ。その原因を解決しないとどうしようもないわ。』

だそうです。

その後、2日間くらいTは泊まっていきいろいろ頑張ってくれたんですが、事態は好転せず…。

『悪いな、オレくらいじゃどうしようもない』

と言って帰っていきました。
その後も、いろいろ心配して電話くれたり家まで来てくれたりしたんですけどね。
ほんと、良い親友を持ったと思ってます。

さて、Tでも結局解決できず、どうしたもんかと悩んでいたら息子の保育園時代のお母さん(仮にAさんとします)と偶然会いました。

Aさん、存在をスッカリ忘れていましたが、いわゆるそっち方面での本業の人。
Aさん、僕を見るなり

『大変なことになってるね。ちょっと後で家に寄らせて』

と言ってきました。
夕方、Aさんが旦那さんと一緒にマンションに来ました。
エントランスまで迎えに行くと、Aさん、エントランスに向かって右側から伸びている坂道、つまりサブエントランスに行く道を睨んでます。
僕が

『どうしました?』

と尋ねると、Aさんは旦那さんに向かって

『これ…アタシじゃ無理かも…』

なんて言ってます。
しばらく坂の上の方を睨んでいた後、

『よし!よし!行ってみるわ』

と言って旦那さんと坂を上っていきました。
実はもうこの段階で、僕もほぼ全部原因がわかってしまったんですが…。
10分くらいして坂を下りてきたAさん

『奥さんに狐って言うより、貴方の家に住んじゃってるね』

と言ってきました。
実は、その坂道のちょうど中ほどの位置に…つまり、僕の部屋のテラスから見える位置にお稲荷さんの祠があるんです。
そこからちょっと上のほうにある家の方が管理するんですが、この家のご長男さん、まったく何の管理もしない…そりゃそうです、自分の家にスズメバチの巣があっても放っておくような人です。
マンションにもがんがんスズメバチが飛んでくるので苦情を言ったことがあります。

『イヤならお前らで金出せば巣を撤去してもかまわん』

なんて言う人です。
敷地外のお稲荷さんなんか手入れするわけが無い…。
ついこの前まで生きてらした先代の方はちゃんと手入れしてたんですけどね。
結局、その人のお子さんは、突如精神を病んじゃいまして…やっぱ祟られたんでしょうね。

Aさんの話の続き。

『ちょっとメンドクサイ事になってるんだけどね、もう祠を手入れすればいいってもんでもないんだわ。早い話ね、祠は手入れしてくれないし、何の許可も無く目の前に2つも3つも家を建て始めてガンガンうるさいしってんでお稲荷さんが家出しちゃった状態。で、お稲荷さんが家に帰ろうとしたらタチの悪い蛇神さんが空き家だと思って入っちゃって、お稲荷さんが帰るとこなくなっちゃってんのよ。だから蛇の影響を受けない貴方のとこに住んじゃっているわけ。』

って事だそうです。
蛇の影響を受けない???

『お稲荷さんは帰るとこなくなって怒ってるし、蛇神さんはせっかく祠を見つけて入ったってのに誰も祀ってくれないんで腹を立ててる…この辺り一帯が二重で祟られてるね』

Aさんが言うには、だから他の部屋では死人や怪我人が出ているんだそうで…じゃなんでウチは言ってみれば派手な喧嘩だけで、死人や怪我人は出ないの?って聞いたら、

『お子さんが尋常じゃなく強いからね』

って…ウチの息子、『龍』の字が付くんですが、大層な名前らしく

『龍神様に護られているよ。たかが蛇くらいじゃ龍にかなうわけないでしょう?』

って…。
こうも言ってました。

『そもそも貴方達家族はみんな竜神様のご加護を受けている。昔から龍に縁があるでしょ?』

と言われ、何も話していないのに次々に過去からの龍にまつわる話を言い当てられ、ちょっとビビリました。
そう言ったわけで、Aさんがその管理している家に出向き事情を説明し、一から十まですべてやってくれたんです。

数週間後、つい先日まで殺し合いに発展しそうな勢いだった離婚騒動が、何もなかったかのように収まりました。
嫁自身、本当に何もなかったかのようにケロッとしています。
今じゃ仲良く暮らしてますが、当時の話を蒸し返すと本当に『???』って顔されます。
何にも覚えてないんでしょうかねぇ?
しかし、今考えても当時の嫁さんの顔…完全に人でなかったような気がします。


※原文ママ

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