【路地裏】【体験談トップ】【管理者体験談】【読者体験談】【作品投稿
□この話は「【D】」が、
2009年7月23日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第二百三十一話
足音

この話を、こういった形で文書にするのは、初めてです。
私の家系では、父が霊感が強く、子供の頃など、他人のオーラが見えたりし、母親(私の祖母)に、

「あの人、死ぬよ」

と言って、酷く怒られた事があるそうです。
しかし、息子である私や兄には、そのような特別な力は、幸いにもありませんでした。※多少…感じる事はありますが。

この話は、その霊感のない、兄から聞いた実話です。

今から、約20年程前。当時、兄は埼玉と群馬の県境にある工場に、寮住まいで働いていました。
車好きだった兄は、休みになると、同僚と、少しやんちゃなドライブに行っていました。
どこの峠を攻めたのかは、子供だった私は忘れてしまいましたが、その日も兄は同僚と山道のドライブに向ったそうです。
ただ、どうも何時もと違い、今日は何だか気持ち悪いなと、兄は感じていたそうです。

ドライブを終え、明け方近くに社員寮に帰宅した兄と同僚は、階段で別れを告げ、兄は2階の、同僚は1階にある部屋で眠りについたそうです。
昼間働き、その後、夜通し走り回った疲れがあったが、兄はなかなか眠りにつく事が出来なかったそうです。

それは、突然やってきました。


「ミシッ、ミシッ」


と足音が聞こえてきました。
木造の社員寮は、誰かが廊下を歩けば、


「ミシッ、ミシッ」


と軋む音がします。
その「ミシッ、ミシッ」という、ゆっくりとした足音が2階の兄の部屋の扉の前で止まりました。
誰かが、部屋の前で、ジッと立っている気配だけがします。
兄は、同僚が、用があって来たのかなと思った時、自分の体の異変に気付きました。


体が、まったく動かないのです。


まばたきは出来るのに、指先から足の先まで、まったく動かない。


「やばいっ、何かやばい」


と兄は思ったそうです。
扉を見ると、「ギィ〜」と音をたてながら、ゆっくりと開いてきました。

心臓の鼓動が早くなり、頭の中は白い稲光の様な危険信号が発せられた兄は、ただ開いた扉を凝視していました。
扉の先には、何もいませんでした。しかし、足音だけは聞こえてきます。


「ギュ、ギュ」


と、ゆっくりと絨毯を歩く音。


「ギュ、ギュ」


その音が、徐々に兄のベットに近づいてきます。
体は動かない、足音は近づいてくる。
兄は、全身に冷たい汗を感じました。


「ギュ」


足音は、ベットの前で止まりました。
ベットの前に、人…と言えばよいのでしょうか。
何か気配が…ジッと何かが、兄を見ているような気配がしていました。
次の瞬間、その気配は、兄の上に覆いかぶさってきました。



「!!!!!!!!」



兄は恐慌状態に陥りました。



「ハァー…ハァー…」



と呼吸音が聞こえてきたそうです。
恐慌状態に陥りながらも、体が動く事に気付いた兄は、慌ててベットから抜け出し、部屋を出て、階段先の1階の公衆電話に向い、震える手で、必死にテレホンカードを入れ、千葉で働いていた姉に電話をしました。
早朝の弟からの電話に、姉はとまどいながら


「どうした?何かあった?」


と聞きました。
しかし、恐怖に兄は上手く話せなかったようです。
ようやく落ち着いて、兄が事情を話そうとした時、2階の兄の部屋の扉が


「ギィ〜…パタン」


と閉まる音がしました。
また、足音が聞こえてきます。


「ミシッ…ミシッ…」

「ミシッ…ミシッ…」


その足音は、ゆっくりと…ゆっくりと階段を下りてきます。
ゆっくりと…ゆっくりと…。
受話器を持つ、兄の背後で足音は止まりました。
何者かの気配。
兄は、今度は金縛りではなく、恐怖で動けませんでした。



「ハァー…ハァー…」



と再び背後で呼吸音が聞こえてきました。
姉は

「○○ッ、どうした?○○ッ」

と、兄のただならぬ気配に声を掛け続けました。
ゆっくりと、その気配は兄の背中に覆いかぶさって来ました。
兄は泣きながら


「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」


とずっと唱えていました。
姉は電話越しに、兄の


「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」


という声を聞いていたそうです。
やがて、気配は消え…兄は、今起きた事を姉に話しました。
早急に除霊してもらいなさいという事になり、その日の午前中に、霊媒師に来てもらい、除霊を行ったそうです。
あとから、兄が同僚に聞かされた話によると、その除霊中、同僚は兄とまったく同じ現象に遭遇していたそうです。

原因不明の出来事でしたが、心辺りとしては、峠でさ迷う霊を連れて来てしまったのか、
数日前に、社員寮付近の電信柱で、首吊りがあったので、そのどちらかだろうと言う事でした。

路地裏】【体験談トップ】【管理者体験談】【読者体験談】【作品投稿