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□この話は「ひさし様」が、 2009年3月13日に投稿して下さった作品であります。 |
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■投稿作品第二百二十一話 行かないで |
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人生36年間で一度だけ恐怖体験をしました。 大学時代は貧乏だったため、6畳風呂無し、キッチン・トイレ付のアパートで暮らしていました。 就職の内定も決まったこともあり社会人生活に風呂がないのはちょっと厳しいかな?と考え、思いきって大学生4年の夏休みに風呂付の部屋へと引越しをすることにしました。 引越しの前日、今までお世話になった部屋をしっかり綺麗に掃除し、引越しに備えるため早く寝ることにしました。片付けと掃除でクタクタに疲れていたので熟睡でした。 寝ていると 「…いで…。」 しくしく。 「…かな…いで…。」 しくしく。 どこからか誰かが泣いているのが聞こえてくるのです。外に誰かいるのかな?と思いながら枕もとにある目覚まし時計を見ると4時。 「もうちょっと時間考えてくれよ…くそっ。」 と布団にもぐり込みました。(当時住んでいたアパートの住人は大学生ばかりだったので夜中に騒ぐ人も珍しくはなく、その時は気にしませんでした。) 「行かないで…。」 しくしく。 「行かないで…。」 しくしく。 今度はさっきとは違ってはっきり聞こえました。女性の泣き声で、その泣き声が自分の寝ている布団の中から聞こえてきているのが分かりました。 恐る恐る自分の布団の中を覗き込んでみると自分の左足の太ももに白髪のお婆さんがしがみ付いていたのです。 「ひゃあぁぁぁ!」 と悲鳴に近い声をあげてしまいました。(情けなくてすいません。) お婆さんは自分を見つめて 「行かないで…行かないで…」 と繰り返し泣くだけで自分の左足からまったく離れようとはしませんでした。 自分はこの場から逃げようとしました。しかし、体が動きません。本当にただ自分の左足にしがみ付いて泣いているお婆さんを恐怖の目で見ているだけしかできませんでした。 そうしていると 「行かないで…ううぅ…行かせない…行かせない…よぉ…行かせないよ」 と言い出し始め、お婆さんがしがみ付いている自分の左足の太ももに痛みが走りました。 「いてぇ!」 と叫んだその時、フッと体が動きました。そして無我夢中で 「離せ!」 と怒鳴りながら右足でお婆さんを蹴りました。何かを蹴った感覚はありませんでしたが、お婆さんの姿が消えました。 自分は半泣き状態でアパートの部屋から飛び出して道端で震えていました。(新聞配達員に不審な目で見られながらも道端で固まっていました。) やがて朝日が見えて少しホッとすると左足の太ももの痛みを思い出しました。短パンの裾を上げて見てみると爪あとがついて赤く腫れ上がっていました。その爪あとを見てあのお婆さんは夢じゃなくて現実だったのだと改めて恐怖を感じました。 その後、へたれな自分は引越し業者が来る9時まで部屋に戻れなかったのは言うまでもありません。 |
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