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□この話は「やぶ医者様」が、
2002年3月29日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第十八話
真夜中の歌声

私が法医学教室で研究をしていた頃のことです。



新しい実験方法の習得のために、アメリカに短期留学したことがありました。
3ヶ月間で、髪の毛からのDNAの新しい抽出法に関してマスターしなければならず、深夜まで受け入れ先の大学の研究室に残ることが結構ありました。



ある日のこと、日時が経って傷んだ髪を指導教官から実験検体としていただき、先程述べた、新しい検出方法を試していました。
従来の方法では、固体識別が可能なほどのDNAを抽出することが出来なかったそうです。

それは警察から預かった、死後何ヶ月も経って傷んだ、身元不明死体の髪だと言われました。
匂いは臭いし、色も良く分からないほどに変色していました。

DNAを抽出し、PCR(DNAを増やす機械)にかける。
新しい方法は時間が掛か り、この時点で夜になってしまいまいした。
正確を期したい私は、どうしてもその日のうちにgene scan(遺伝子解析装置)にかけたく、研究生が帰った後も、私は一人残ってscanの準備をしていました。


その時、微かな歌声が聞こえてきたのです。





「I her〜 Whoo…I her no〜…can you……whuu」





子供の歌う讃美歌のような、とても綺麗な声でした…。



研究室では、雰囲気を和ませるために普段ラジオを掛けています。
だから、私はその音だと思って、何も気にはしませんでした。
普段ラジオを聞く習慣が無く、英語もそれ程堪能ではなかった私は、ゴスペルか何かの番組をやっているのだろうと思っていたのですが…。

しばらくして、私は不意に気がつきました。
ラジオが置いてあるのはPCRの部屋で、gene scan(遺伝子解析装置)の置いてあるこの部屋ではない。
Scanの置いている部屋は温度湿度を一定に保つために壁が厚くしっかりと作ってあり、防音性が非常に良いことを、普段scanにかかわっている私はよく知っていまし た。


―――――そんなに大きな音で、ラジオかかっていたっけ?


私が不審に気がついたのを悟ったかのように、その歌声はさっきよりも大きくなりました。
次第に、歌詞がはっきりと聞き取れる様になりました。




I’m here whoo…

I’m here now…

can you hear me?…whuu

…alone in 〜〜〜…

I’m here please…




幼子が一生懸命歌っているような、澄んだ声でした。
不思議に思いながらも、私はscanをセットし終わり、作動させました。
それと同時に、その声はぷつっと聞こえなくなりました。



私は少し残念に思いながら、PCRの置いてある研究室のほうに戻りました。
Scanには15時間かかります。
後は明日と思っていました。


――――あれ??


研究室は誰もおらず、さっきまでついていた筈のラジオは沈黙していました。
確かめてみると、スイッチがOffになっています。




――――では、さっきの歌声は??





それから数日後、警察からお礼の電話がありました。
あの日の実験は成功し、DNA配列から、5年前に行方不明になっていた、

“イギリスの10歳の女の子のもの”

と判明しました。
そして遺骨はイギリスの両親がわざわざ迎えに来て、イギリスへと連れて帰ったとそうです。



――――あの日の歌声は、再び聞こえることはありませんでした…。







I’m here whoo…

私はここにいます…

I’m here now…

私は今ここにいます…

can you hear me?…whuu…

あなたには私の声が聞こえるでしょうか?

alone in…

孤独の中に閉ざされた私の…

I’m here please…

どうか…私はここに…









□管理者より

独自の翻訳をしてしまいましたが、本来はもっと違う訳だと思います。
文法にとらわれず、内容を素直に感じ翻訳したつもりです。
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