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□この話は「匿名希望様」が、
2005年10月25日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第百六十三話
晩過ぎた帰りの道

晩過ぎた帰りの道。
学校に通う生徒や大学生、会社員の恐怖を煽る夜。
その時は私はまだ高校生で、夜九時まで勉強に明け暮れる日が続いていた。
それが、こんな事を引き起こすなんて、思いもしなかった。
 
「うわ、九時過ぎたし」
 
そう言って、私は最後の下校生徒として戸締りをし始める。
鍵を持って教室の戸を全て閉め終え、そこを出る。
と、廊下が真っ暗なのに初めて気付き、ゆっくりとした足取りで歩き始める。
廊下を進み、階段を下りると、職員室が覗ける。
そこへ行って中を窺い、言う。
 
「すいませーん。晩くなりましたー」
 
別に言う必要は無いのだが、そうするのは自分の常識の中では当然だと思えていた。
この時間まで残っている生徒は少ない。
心配されるより先に安心を与えたく、そしてその通りに。
 
「まだ残ってたの!?もう九時よ!?」
 
部活生でも無かった私は、その時ばかりは勉強だけが取り柄だった。
今となってはそれは、素晴らしい思い出。
そうでもあり、馬鹿らしい思い出でもあった。

言われた私は鍵を届けると、

「失礼しまーす」

と、退散する。暗い場所が嫌いというわけでもなく、難無く、というより、難を作ることすら無く駐輪場へと辿り着く。
そこからはただ走らせるのみだった。
何も起こらず、いつもの近道を通って、無事に帰られると思っていた。

入り組んだ近道に入って路地を走らせる。
出せる限りの速さを出し、帰り着くのは九時半位か、と思いながら、

走る。走る。
走る。走る。
走る。走る。




悪寒が走る。




そこを通る前から見た時には何も無いように見えた……
そんな場所に、影が、はっきりと。
小さな、白い影。今の時代に布一枚を纏うようなそんな人は先ず居ない。
それを視界の端で捉え、身体を硬直させる。
ただ立った儘、なぜに何の動作も無いのか……
気になって仕様が無く、恐かったが為に乗っている自転車の速度が増したようだった。
背筋が凍った儘に。
ただ恐怖を覚えたことだけを覚えていた。

思い返す。
『ソレ』に、首から上が無いようにしか 見えなかった。ふと、寒気を甦らせる。
 
次の日。
私は、同じ道を通ることができなかった。

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