【路地裏】【体験談トップ】【管理者体験談】【読者体験談】【作品投稿
□この話は「じょうたろう 様」が、
2005年8月4日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第百五十三話
廃屋に住む女

これは私が小学校5年生くらいの時の話です。

当時はよく外で鬼ごっこや探検ごっこをしておりました。
家から半径50メートルも離れていない所でも、塀を登ったり、普段通らない道を行くだけで、とてもワクワクドキドキしていたものでした。

ある日、友達が、近くに誰も住んでいない家があるというので、みんなで自転車をこいで探検に行くことにしました。
そこは高い塀で囲まれおり、外からは2階の窓しか見えませんでした。
門はかたく閉ざされ、入口はありませんでした。
しかし裏のほうへ回ると、子ども一人がやっと通れる隙間が、一ヶ所だけ空いておりました。
そこからみなで中へ入っていきました。

家と塀の狭い場所を抜けると、そこには広い庭があり、ところどころ壁の崩れた2階建ての日本家屋がありました。
見ただけでも人はすんでいないと分かりました。
一応、扉や雨戸はしまっておりましたが、簡単にあけることができ、中へと入ってみると、床は抜け、あらしの後のように散らかっておりました。
しかし子どもにすれば最高の遊び場でした。

その日は家中を探検し、何事もなく元きた道を戻りました。
そして次の日に夕方、さらに友達をよんで、みんなで肝試しをやることになりました。
季節は秋で少し肌寒く、日は短く、あたりは暗くなり始めていました。
場所は廃屋の2階。なぜかここにはソファーや家具があり、床も抜けずにのこっておりました。

ここでさっそくロウソクを1本つけ、怪談話が始まりました。
初めはワイワイやっておりましたが、ある時、一瞬みんなが


シーン


と静まり返りました。
たしか8人近くその場にはいたと思います。
なぜ静かになったのかは分かりません。
しかし次の瞬間、



「ギィ…ギィ…ギィ…」



という音が聞えてきました。
どうやら階段を誰かが上がってくるようなのです。
古い家ですので、階段は木で出来ているため、足をかける度に音がするのです。
あたりは日もだいぶ落ちかけており、奥の階段付近は、明かりがないとほとんど真っ暗で見えません。
みな凍りついて身動きひとつとれません。
しばらくすると「ギィ…」という音がやみました。
その代わりに今度は



「ミシミシミシ」



という廊下を歩く音が大きく響き、その瞬間に、みな悲鳴をあげてパニック状態になりました。

しかしそれからまったく音は聞えなくなりました。
少し待ってから、勇気をふりしぼって、みんなで階段のほうへ歩いていきましたが、変った様子はなにもありませんでした。
もうあとはみんなダッシュで自転車のところまで逃げました。

外へ出るとみんな安心したせいか、一気にまくしたてるように、ああでもない、こうでもないと今の出来事をしゃべり始めました。

けっきょくは幽霊屋敷だということに落ち着き、当たりも暗くなったため解散することにしました。


「じゃあねぇ〜」


と方々へみな散っていくとき、私は一瞬でしたが見てしまったのです。
外から唯一見える2階部分の窓に、




悲しげな顔をした女性




が、こちらを見下ろしていたのです…。


それ以来2度とその家に入ることはなく、数ヵ月後にはきれいに取り壊されてしまいました。
あの女性は一瞬でしたので錯覚ということで、自分自身で納得して、胸にしまっておりました。

しかし、錯覚ではなかったのです。
最近クラス会があり、その当時の話になりました。
もちろんあの廃屋の記憶は強烈でみなおぼえておりました。
そこで今まで胸にしまっていた話を初めて打ち明けました。

すると、なんと、他にも実は見たという奴がいたのです。
しかも2人も。

みな認めるのが怖くて言い出せなかったそうです。
しかし、不思議なことに3人とも、その女性に対して怖いという感情はありませんでした。
むしろ寂しそうに感じたのです。
もしかしたら楽しそうな私たちの仲間に入りたかったのかもしれません。
だいぶ後になって知ったことですが、ずいぶん昔、あの家にはある会社の社長夫婦が住んでいたのですが、ある時倒産し、旦那さんは蒸発、奥さんはあの家の1階で自ら命を絶ったそうです。
子ども好きで近所で評判の奥さんだったということです。


路地裏】【体験談トップ】【管理者体験談】【読者体験談】【作品投稿