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□この話は「清葉 様」が、
2005年7月22日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第百四十七話
霊道

あまり怖くはありませんが、つい先週の話をします。

その日は、祇園さんの宵山の日。
わたしは祇園祭の見物がてら、習っている長唄の浴衣会に出るために、京都へ行っていました。

この時期、京都は観光客でいっぱい。
早めに予約しないと、宿泊する場所にも困るくらいです。
でも運よく、この春、リニューアルした所に予約が取れました。
そこは、結髪をする女の子には有名なところで、わたしもその日は、浴衣会のために日本髪に結っていただいていました。

その夜は11時過ぎまで宵山で賑わっているとかで、わたしも浴衣掛けに日本髪で見物に出かけました。


が、…帰れないんです。


宿の目の前に来ているはずなのに、同じ所をぐるぐる廻って。
祇園の裏手、建仁寺さんと六道珍皇寺(あの世とこの世の境という)の前の道をうろうろ…。

どこをどう曲がっても、六道珍皇寺に出てしまって、あとは足がすくんで進めない。
電話をしても宿には誰もいないし、ひとっ子一人通らない闇の道を行ったり来たり。
いえ、人通りはあったはずですが、わたしには見えませんでした。
もしかしたら、わたしの方が狐つきか何かに見えていたかも知れません…。

3時間もさまよって、身を投げ出すようにして止めたタクシーでやっと宿に帰ると、もう真夜中。
宿泊客がわたし一人ということは、昼間からわかっていたことでした。

リニューアルしたばかりで、女の子の間では「きれい」と評判の宿でしたが、そして確かに新しかったけれども、昼間、格子に手をかけた瞬間から古い建物が目に浮かび、何となく「嫌だな」という気はしていたのです。でも、その時は

“いま、ここにいる”

という感じはしなかったので、気のせいかな…と。
だから、そういう時に”見えない方”にいつもしていた「通ります」とか「今日、ここへ泊まらせていただきますね」という挨拶はしていませんでした。

帯を解いて、シャワーを浴びましたが、眠れません…。
1時半も廻った頃、


“パンッ”


と音がしました。



パンッ、パンッ…



日本髪用に用意された箱枕の高さが合わなかったわたしは、その音を聞いて、寝るのをあきらめました。

だって…その音がクーラーの奥の壁から、私の寝ている布団を通って、枕元の小箪笥の中、脇の壁へと対角線上に横切っていくから。



「あ…、霊の通る道なんだ…」



自然にそう思って、すっと避けました。
通行の邪魔をしているような気がして。
途中、何体か黒い影に覗き込まれましたが、怖い感じはしませんでした。
ただ、曾祖母・祖母・母と代々、神社に修行に行っていて教えてもらった詞は、頭からすっぽりと抜かれたようになって、唱えることも思い出すこともできませんでした。

気がつくと、目を開けて座ったまま、夜が明けていました…。

あのラップ音は、朝の4時前まで一晩中、一方向にだけ響き続けていました。



京都には霊道が多いと言いますが、わたしが泊まってしまったのも、丁度そんな通り道の一つだったのかも知れません…。


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