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□この話は「エミ 様」が、
2005年7月4日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第百四十一話
記憶

 先日は掲載有難う御座いました。
 実は、心霊コラムを拝読していて、どうしても抑え切れなかった話がもう一つあります。長くなりますが、よければ読んでやってください。

 ほんの2年程前のことです。
 夏に私が原因不明の半身麻痺で倒れたのを皮切りに、家庭内のバランスががたがたになりました。『おしどり』というほどではなくても、平均くらいには仲の良かった両親の仲がギクシャクし始め、祖母が転倒して背中と腰を痛め、妹が体調を半端ではなく崩し…一つ一つは些細でも、立て続けでは流せません。かなり異様な状態でした 。

 前回の投稿にも書きましたが、私の母方の祖父母は神主です。遠方に住んではいましたが母と折り合いが悪いと言うわけでは決して無かったので、一度お祓いしてもら う事になりました。

 お祓い自体は滞りなく済みました。祖父母は私の家に一泊してから帰る事になっていたのですが、夕食を済ませたあたりで私に異変が起きました。
 やたら現実感のある異質な記憶がフラッシュバックのように思い出され始めたのです。病室の風景、服装、怒りと言うより悲しみの感情。自分が経験した事のようにまざまざと蘇ってくるそれらは、しかし私の記憶ではありません。
 パニックを起こしかけた私は、めちゃくちゃな文脈のまま母にそれらを訴えました。母はすぐに顔色を変え、2階の客室に居た祖父の下へ私を連れて行きました。あまりに普通ではない私の取り乱しように、祖父は慌てずに話し掛けてきます。


「貴方は何を話したいのですか?何を伝えたいのですか?」


 そこでやっと、これらが誰の記憶か、それを私に思い出させ、話させたのが誰か分 かりました。

 母は看護婦なのですが、一度だけ、食事介護の時に患者さんを死なせてしまったそうなのです。故意ではなく過失で、母自身新米だったのもあり、互いの話し合いで終わったそうですが…。
 無論、母はそれを悔やみ続け、今も命日を覚えていました。

 その時の患者さんが、どうも十何年と言う歳月の間、私に『ついていた』らしいのです。麻痺との関係は分かりません。が、体調を激しく崩したのをきっかけに私の心に訴えかけてきたのでしょう。
 家族に供養をないがしろにされている彼は、私以外に頼るところは無かったようでした。ぼろぼろと泣きながら、彼の死の間際の記憶や悲しみを私は話しました。
 彼はそうやって一切の思いを吐き出してようやく、祖父に導かれて行くべき場所へ去っていきました。

 それからは不思議と落ち着いたものでした。祖母は着々と回復し、妹も活気を取り戻し、私も日に日に身体の感覚を取り戻していきました。
 そこまでの出来事の全てが、その患者さんのせいだとは言いません。続いた不幸にお祓いを受け、結果として『何か』がついていた時、どうしても人はそこに責任や理由を求めたがります。
 けれど、少なくとも私の場合は、何かしら生きた人間の間で行き違いがあったのも事実です。

 でもそれだけで説明しきれないのも事実です。
 何故なら、その日まで存在していた事すら知らされていなかった、赤の他人である男性の死に際の服や生前の様子などを、私が言えるはずが無いのですから。


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