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□この話は「エミ 様」が、
2005年6月30日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第百四十話
冬の夜の寝息

 恐怖、というのとは少し違うかもしれませんが、他の皆さんの体験談を読んでいてふと思い出しましたので…。

 多分10年ほど前、小学校高学年の頃だったと思います。
 当時の私は霊感、のようなものが多少ありました。今はもう年齢と共に鈍くなり奇怪な出来事も無いのですが、丁度この出来事の辺りは最盛期だったのではと思います。

 そんなある日の夜。
 妹と相部屋の頃使っていた2段ベッドの上の段で眠っていた時のことです。妹は既 に自分の部屋を持っており、部屋には確実に私一人でした。時刻も夜中2時頃と、両 親及び祖母もとっくに眠っている時間。

 そんな時間に、何気にふいと目を覚ました私は非常に嫌な感じを覚えました。
 この頃はそういう変な時間に目を覚ますと、何かしら妙な体験があったからです。

 「いやだな」

 と思うとほとんど同時に、誰かの寝息が聞こえてきました。一瞬「わたしの?」と息を詰めた私は、次の瞬間に全身が総毛立ちました。
 寝息が聞こえてくるのは背中側。2段ベッドの上の段のその方向は確実に壁だけです。しかもその壁は家の外側。その向こうには狭い裏庭があるだけで、両親の寝室の方向ではありません。

 父はいびきの酷い人でしたが、聞こえてきた寝息はむしろ安らかでした。つまり父や母や祖母や妹と言う生きた人間が発しているものではなかったのです。
 すうすうと、微かにしかしはっきり聞こえる寝息に冷たい汗をかきながら、私はがちがちに固まっていました。両親を呼ぼうと思ったのですが、声が出ません。
 出ないと言うよりは、出してはいけないと思ったのです。何故か。

 結局気を失うように眠り込んで、朝になりました。
 飛び起きるなり居間へ駆け下り、母を捕まえて夜の出来事を話しました。母の祖父母は神主、娘の母もそういった感性のある人だったので、自分の体験を話すのは初めてではありませんでした。周りくどい説明をせずとも、すぐに原因らしき事実を教えてくれました。
 その日は、父方の祖父の10年目の命日だったのです。
 私が生まれる寸前に亡くなってしまった祖父でしたが、私の誕生を楽しみにしていて、是非腕に抱きたいと言ってくれていた人でした。
 生きて会えなかった孫の私への、何かの知らせだったのでしょうか。

 以降、特に目立つ奇妙な体験はありませんでしたが、だからこそ鮮明に覚えている出来事でした。
 今なら納得できる祖父の寂しさも、当時は恐怖以外の何物でもなかったのですが、それも良い思い出です。

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