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□この話は「やぶ医者様」が、
2002年2月28日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第十四話
自然現象?それとも…

私は今臨床医をしていますが、昔は別の県で司法検死に関わっていました。
そこで出会った、忘れられない仏様の話です。
話の性質上、事実をそのまま話せないことは、御了承ください。



ある寒い日の朝、法医学教室の電話が鳴って、警察から司法検死疑いの依頼が入りました。
珍しく、現場に来てプリーズ!という内容でした。

一番下っ端な私が、とりあえず先着して、事情を聞きに行くことになりました。
その日は大変寒かったのを良く覚えています。
現場は、ある中くらいの池でした。顔見知りの警官が私を見つけ、挨拶もそこそこに、池の一点を指差しました。

「…なんですか?あれは…」

私は思わずそう言いました。
池の中央よりもややこちら側よりに、氷の塊が浮いていました。
ただの氷ではありません。
なぜなら、それは…



直接人から取ったかのように精密な人型が彫りこまれていました。

髪のすじ、服のしわ、何から何までうつ伏せて浮く人の姿そのままでした。

ただ違うのは、その姿が白く透き通っていること…。



札幌の雪祭りってありますよね。
あれで、毎回良く出来た彫刻が展示されていますが、不謹慎ながら、私はその時、その氷の彫刻を思い浮かべていました。
ただしこの場合は、氷の板に人型が彫りこまれている点で違いますが。

今朝早く、池周囲を散歩していた人が水面に浮くこの氷を見つけ、てっきり人の水死体だと思い警察に通報した、とその警官は言いました。
警察も戸惑ったものの、あまりにもリアルすぎるため、念のため池内部を捜索したそうです。

「すると、見付かったんです。そちらの仏さんが…」

そう話す警官の顔は、心なしか青ざめていました。
指差す先を見て、私も思わず息を飲みました。
青シートの上にいらしたのは、すでに硬直し、背中を見せてうつぶせる、


氷の彫刻に掘り込まれたそのままの姿をしている仏様でした。


ジャンパーのしわの具合、髪型、姿勢、何もかもがそっくり同じです。
そう、あの氷の彫刻は、彼を型にとって出来た物に間違いありません。

「この仏さんは、水深2メートルぐらいの所で、水草に絡まれて沈んでいたんです」

警官の顔は、泣き出しそうでした。
私は、それっきり何も言えなくなってしまいました。

普通、氷は水面から出来ます。
その際に、水面に何か異物があれば、その型をとった氷ができることもあるそうです。
しかし、この仏様は、水草に絡まれて水面から2メートルも下に沈んでいたのです。
一時的に、仏様が水面に浮いてきて、その時に氷が出来、その後に再び仏様が下に沈んだのでしょうか?
では水草は?
あるいは、水面から2メートルもの場所で、氷が出来たのでしょうか?
しかし、その日は水面に氷が薄く張るか張らないかという気温でしかありませんでした。



詳しい事情は省きますが、結局、警察は犯罪性はないという結論を下しました。
事故だったのです。
その方のご冥福を祈っています。
しかし、私は今でも納得が行かない部分があります。
あの氷の彫刻です。あれは一体、どうして生じたものなんでしょうか?
自然現象?それとも……。

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