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□この話は「スピ様」が、
2004年9月6日に投稿して下さった作品であります。
■投稿作品第百十九話
着物

2002年暮れに婚約者の彼と、年末旅行で某県の某温泉に訪れた時の出来事です。

その時の日程は、12月30日〜31日と2泊、その旅館に泊まることになっており、元旦からは別のホテルに泊まることになっていました。

その古めかしい旅館は、おそらくその地区では一番大きいであろうと思われる規模の旅館でした。

東京から新幹線で約5時間。
さすがに疲れていた私達は、旅館の最寄り駅に到着してから、タクシーを使うことにしました。
やはり土地柄なのか、タクシーのおじさんはとても良い方で、すっかり仲良くなりました。
余りにも仲良くなったので、翌日の移動の際にも、そのおじさんのタクシーをお願いしました。

旅館の温泉も料理も最高に楽しめたのを覚えています。
部屋も普通の旅館よりも大きくて…。
ただ一つ気になったのは、変わった部屋のつくり(部屋の一角に小さな部屋のようなものがある)と、旅館のすぐそばにある大きな山…。
私達の部屋は最上階で景色も良さそうだったので、明日のお楽しみということにしました。

初日に部屋に入った時間が遅かったせいもあり景色が拝めず、そこに何が有るのかはわかりませんでした。

そして、その12月30日の晩。
暮れ間近で、番組も定番のものばかりであまり面白くないので、私達はすぐに寝ることにしました。
旅の疲れも手伝って、あっというまに眠りに付くことが出来たのですが、寝付いてから3、4時間経ったころでしょうか…何かの音で目が覚めました。
しかし、身体は全く動きません。モロに「金縛り」でした。

最初は「えっ?」という感じだったのですが、目が覚めた時の


「何かの音」


がどこから聞こえてくるか、耳で辿りました。
それは私達が寝ている布団から1メートルほど離れた場所に移動させたちゃぶ台から。
そこに置いておいた湯呑みの「カチャカチャ」という音でした。
私が耳を澄ませている間にも鳴っていたのですが、彼はぐっすり爆睡状態であり布団からこれだけ離れているのだから、別の人が動かさない限り湯呑みの「カチャカチャ」という音は出ないはず……

そう思った瞬間でした。
今度はそのちゃぶ台のすぐそばから、



「ずっ」


とか



「ざっ」


というような


「布を引きずるような音」


がしたんです。
私は彼の右側で、彼の方をむいて横向きに寝ていたんですが、その「布を引きずるような音」は次第に足下のちゃぶ台から、私の後ろを辿ってきました。

音が頭の方に近付いてくるにつれ、よくよく聞いていると



『これ、歩いている音だ!』



と分かり、ものすごい恐怖心が湧いてきました。
私は普段でも時々金縛りにあうので、『しばらくはシカトでやり過ごそう』と思ったのですが、その「音の主」は私の後頭部付近でじっとしているようなのです…。

私はあまりの恐怖心にかられ、金縛りもほどけぬ手で必死に彼を起こそうとしました。
普段なら、少しつついただけでも起きるのに、この時は思いきりつねっても起きなかったんです。

私はその恐怖心で気絶したのか、寝てしまったのかは覚えていませんが、その夜の出来事はここまでしか覚えていません。
ただ、何故かその後に泊まっている部屋の情景の夢を見ました。
色付きではなかったのですが、藤額の綺麗に髪を結った着物の女性が、私達の宿泊している部屋にいる夢。


翌朝、起きてすぐに彼に


「夜中、出たね」


というと、真っ青な顔をして


「俺も変なことがあった」


と言い出したのです。
彼は最初「夢(?)」を見たのだそうです。
部屋のふすまがサーッと開いて、


「あっ、誰かが部屋間違えて入ってきちゃってる」


と思ったそうです。
そこでパっと彼は目が覚め、ふと闇の中、目を凝らしたら…何故か



「真っ赤な着物」



が着物を架ける大きな衣紋掛けが枕元においてあったそうなのです。
それは夢だったのかなんなのかは分かりませんが、あまりにも気味が悪いので、翌日迎えに来てくれたタクシーのおじさんに



『あの旅館のことで何か知っていることありますか?』



と軽く聞いたんです。すると



「ああ、あそこの旅館はよく着物の展示会してるみたいですよ。」


と。
もちろん私達は今回旅行するにあたって「着物」というキーワードは何一つ知りません。

そしてもう一つ。



「旅館の裏山って、何があるんですか?」



と尋ねたところ、



「あそこは大きなお寺と祠があるんですよ。
お墓が本当にたくさんあって、気味が悪いんですけどね」



とのこと。
後から聞いた話と、私達が昨晩体験した事…
何かつじつまが合って、1本の線で繋がります。

そして部屋に帰ってきて気になっていた


「部屋の一角にある小部屋」。


私がそこに入ってみたところ、壁に取り付けてある板のような物がありました。
側面を見ると蝶番のような金具が見えたので、開くのかな…と思い、いじってみたら開きました。
みると、


上半身から太ももまでが全て写るようなとても大きな鏡


でした。
直感ではありますが

「これ絶対着物の着付けの時に使う、着付け部屋だ!」

と思いました。
ただ、こんな大きな鏡が部屋にあるのも気持ちが悪かったので(昨晩のこともあって)すぐに閉じましたが…。
そんな不思議な体験をしました。

あれ以来妙な出来事は特にありませんが、もし某県の温泉地にお出かけになる際は訪ねてみてください。


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